その森は、この世界で一番古い森と伝えられている。
それは旅人を拒む森。
森に入り真っ直ぐ歩いているつもりでも、出口はいつでも森の入り口。
元の場所に出てしまう。
森の中に入るとまるで日の光が届かない夜のように暗くなる。
木々がうっそうと重なり繁り、森の中に日の光は届かない。
しかしそれは、人が森に入って真っ直ぐ進んでいるのに元の場所に戻ってしまう理由とはならなかった。
千年ほど前までは、この古森も旅人を受け入れていたという伝説がある。
目的を持って入った者も、道に迷って入り込んだ者も、この森は等しく受け入れていたと。
*
森の中の何処かには人里があり、森の何処から入っても、道はその里に繋がっていた。
そこは人間の里だったが、エルフや獣人も多く見かけた。
他の都市から大分離れているはずだが、その里人の生活は豊かだった。
里人は旅人に親切で、寛容だ。
争いも無く、その里は生活だけでなく里人の心も豊かだった。
*
そんな伝説があるのに、今この森は旅人を拒んでいた。
誰も森の中を自由に通れないため、今では森の中の里の話も旅人の間のほら話と思われている。
魔物がその力で旅人を迷わせている、と言う者もいた。
が、それはこの古森には当てはまらない。
この古森に魔物は存在しないからだ。
その、古森の中。歩を進める人影が二つ。迷い込んだわけではなく、目的を持って歩いているように見える。 あたりを見ながら歩いているのでは無く、真っ直ぐ前だけを見て進んでいるからだ。その足元を注意深く見ると、そこは踏みしめられた後が微かに残っている。過去にもそこを踏みしめて歩いた者がいるのだ。それに気がつけば、二人が歩んでいるところが森の中の道であることがわかるだろう。
二人は真っ直ぐ東に向かって歩いていた。二人はそのつもりで歩いていた。急ぎ足ではなく、ゆっくり過ぎることもなく、ただ二人は真っ直ぐ歩いていた。
やがて二人の前方に、木々の間に光が見えてくる。歩く二人の間には安堵感が漂った。それでも二人の歩みは変わることは無かった。
そうして、視界が開けた。
二人の目の前には、白い砂浜と、真昼の太陽に照らされ空の色を移して輝く青い海が広がっていた。海風が、二人が身に着けているマントのフードを膨らませる。
「・・・海は久しぶりだな。」
二人のうちのどちらかが呟いた。
「・・・アンタはそうね。わたしは時々来るけどね。」
もう一人が答える。
「・・・・・・・そりゃ・・・・・。森の外には魔物がいるからさ、戦闘が面倒なんだよな。」
「でもそれは森の西側のことでしょう? 海側には殆どいないわよ。」
「まったく・・・じゃあないだろ。どっちにしろ、森の中にいたほうが面倒がなくていいんだよ。」
それから二人は黙って波打ち際に佇んでいた。まるで海から誰かが来るのを待っているかのように。
どうやら、古森にとって例外はあるようだ。少なくともこの二人を、森は受け入れているようだった。旅人のほら話も、全部が全部ほら、というわけでもないようだった。
しかし、例外はあったとしても、この古森は旅人を拒んでいるのだった。
それは旅人を拒む森。
森に入り真っ直ぐ歩いているつもりでも、出口はいつでも森の入り口。
元の場所に出てしまう。
森の中に入るとまるで日の光が届かない夜のように暗くなる。
木々がうっそうと重なり繁り、森の中に日の光は届かない。
しかしそれは、人が森に入って真っ直ぐ進んでいるのに元の場所に戻ってしまう理由とはならなかった。
千年ほど前までは、この古森も旅人を受け入れていたという伝説がある。
目的を持って入った者も、道に迷って入り込んだ者も、この森は等しく受け入れていたと。
*
森の中の何処かには人里があり、森の何処から入っても、道はその里に繋がっていた。
そこは人間の里だったが、エルフや獣人も多く見かけた。
他の都市から大分離れているはずだが、その里人の生活は豊かだった。
里人は旅人に親切で、寛容だ。
争いも無く、その里は生活だけでなく里人の心も豊かだった。
*
そんな伝説があるのに、今この森は旅人を拒んでいた。
誰も森の中を自由に通れないため、今では森の中の里の話も旅人の間のほら話と思われている。
魔物がその力で旅人を迷わせている、と言う者もいた。
が、それはこの古森には当てはまらない。
この古森に魔物は存在しないからだ。
その、古森の中。歩を進める人影が二つ。迷い込んだわけではなく、目的を持って歩いているように見える。 あたりを見ながら歩いているのでは無く、真っ直ぐ前だけを見て進んでいるからだ。その足元を注意深く見ると、そこは踏みしめられた後が微かに残っている。過去にもそこを踏みしめて歩いた者がいるのだ。それに気がつけば、二人が歩んでいるところが森の中の道であることがわかるだろう。
二人は真っ直ぐ東に向かって歩いていた。二人はそのつもりで歩いていた。急ぎ足ではなく、ゆっくり過ぎることもなく、ただ二人は真っ直ぐ歩いていた。
やがて二人の前方に、木々の間に光が見えてくる。歩く二人の間には安堵感が漂った。それでも二人の歩みは変わることは無かった。
そうして、視界が開けた。
二人の目の前には、白い砂浜と、真昼の太陽に照らされ空の色を移して輝く青い海が広がっていた。海風が、二人が身に着けているマントのフードを膨らませる。
「・・・海は久しぶりだな。」
二人のうちのどちらかが呟いた。
「・・・アンタはそうね。わたしは時々来るけどね。」
もう一人が答える。
「・・・・・・・そりゃ・・・・・。森の外には魔物がいるからさ、戦闘が面倒なんだよな。」
「でもそれは森の西側のことでしょう? 海側には殆どいないわよ。」
「まったく・・・じゃあないだろ。どっちにしろ、森の中にいたほうが面倒がなくていいんだよ。」
それから二人は黙って波打ち際に佇んでいた。まるで海から誰かが来るのを待っているかのように。
どうやら、古森にとって例外はあるようだ。少なくともこの二人を、森は受け入れているようだった。旅人のほら話も、全部が全部ほら、というわけでもないようだった。
しかし、例外はあったとしても、この古森は旅人を拒んでいるのだった。